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福岡高等裁判所宮崎支部 昭和24年(つ)371号 判決

被告人

渡辺一郞

主文

本件控訴を棄却する。

理由

弁護人溝淵亀澄の控訴趣意第一点について。

銃砲等所持禁止令に、所謂銃砲とは、同令施行規則第一条第一号に彈丸発射の機能を有する裝藥銃砲であつてその主要部分の不足、破損があつても、容易に修理することができ、修理すれば、彈丸発射機能を回復し得るような裝藥銃砲をも含むとすること、所論判例の示すところである。そして、その修理可能であるかどうかは、所論のとおり、專門家の鑑定をまつことが望ましいところであるが、事実承審官において、証拠として提出された銃砲を親しく觀察し、記録に現われている諸般の事情及び経驗則により、修理可能と認め得べき場合は、あえて、その鑑定をまつ必要はないものというべきである。今本件につき、記録を調べてみれば、原審においては、被告人の公判延における供述、適法に取調がなされた各証拠と照し合せて、親しく本件拳銃(証第一号)を觀察した上経驗則に準拠して該拳銃は所論のとおり、その主要部分が不足していて、そのままでは使用することはできないが、特に鑑定の結果を俟つまでもなく、修理すれば、容易に彈丸発射機能を回復し得られるものと認めたので、弁護人の所論鑑定申請を必要ないものとして却下したことが認め得られないではない。そして、このような判断は決して論旨にいうような一裁判官の独断ではなく、事実審たる原裁判所が、その有する自由裁量権の範囲内において適法になした事実の認定に外ならないのであり、しかも、この原審の認定によれば本件拳銃は、前示法令にいわゆる銃砲に当るものであること冒頭に説明したところによつて、自ら了解し得られるであろう。なお、論旨は、原判決は弁護人が原審においてなした本件拳銃の発射機能の缺如の主張に対し、何等の判断をも与えなかつたのは違法であるとするものであるが、右主張は結局、目的物に関する犯罪構成要件該当性の缺如を攻撃するものであつて、すなわち單なる事実の否認たるに過ぎないから、刑事訴訟法第三三五条第二項により判断を示すべき事項に当らないので、原判決が、これに関する所論の判断を示さなかつたのは正当である(昭和二四年(れ)第二、〇九三号・昭和二五年二月二日第一小法廷判決參照)さすれば、原判決には、所論のような事実の誤認又は理由不備の違法はないので、論旨は採ることを得ない。

(弁護人溝淵龜澄の控訴越意)

第一点

原判決は事実誤認及理由不備の違法がある。原審に於て弁護人は「本件の拳銃は主要部分が取除かれて使用に堪へぬものであるから銃砲等所持禁止令に所謂銃砲には当らない然して本件の実包は元陸軍若くは海軍に於て戰斗用途に供する爲に製造したものでないと思ふので銃砲等所持禁止令に所謂火藥類に含まれたい」と主張し(記録三五三丁)又本件拳銃の発射機能に付て被告人渡辺一郞に発問したところ被告人は「部分品がないので使用出來ないと小西が言つてゐました」(記録三一丁)「当時私もこの拳銃はこわれてゐるので賣れぬことはないかと申しましたが一応預つて呉れと言ふので預りました」(記録三〇二丁)とあり本件拳銃の発射裝置の主要部分(名称不明)が取除かれてゐることは現物によつても一見明瞭である。

銃砲等所持禁止令に所謂銃砲とは同令施行規則第一條の一により彈丸発射の機能を有する裝藥銃砲をいふとあるから其の機能を缺如した拳銃は同令による取締の対象とならぬことは明かである。本件の拳銃は正に此の発射機能を備へないものであるから弁護人は其の点と尚修理可能のものかと言ふ点に付て鑑定を請求したのである。(記録第三五丁)が原審裁判官は「拳銃の鑑定に付ては撃発裝置附近の部分品が一部取れて居る樣で破損してゐることは認めなれるので此の儘使用出來ないことは認められるがこの程度の部分的破損が修理不能であるとは考へられないから鑑定は其の必要がないものと思料し之を却下すると決定を宣した」(記録三五丁)のである。然し修理可能であるか否かは專問家の鑑定を俟たねば一概に論断すべきでない況や精密巧緻な拳銃の発射裝置に付て一裁判官が修理可能だと認めたとしても其れは独断のそしりを免かれぬ。然も原判決は弁護人の右本件拳銃の発射機能缺如の主張に対し何等の判断を与へてゐないので証拠に基かずして事実を誤認したことになり之は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから破棄を免れない又理由不備の違法がある。

尚參考の爲め左の判例を摘記する。

要旨

銃砲等所禁止令第一條並びに同施行規則第一條にいわゆる銃砲は何等の故障なく何時でも彈丸を発射し得る機能を有するものだけを指すのではなく故障があつても容易に修繕することができ修繕すれば彈丸発射し得るものを含むと解すべきであるから主要部分の不足、破損があるからとて直ちに以て彈丸発射機能を有しないものと即断することはできないのであつてその不足を補充し且つその破損を修繕し得るものなりや否々の点について審理判断を遂げなけば未だ以て右禁止令並びに同令施行規則にいわゆる銃砲に該当するや否やを決することはできない。

(昭和二十四年六月二十八日最高裁判所第三小法廷判決、時事通信社法令日報第二八〇号所載。)

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